よどみにうかぶ、舞台「戦国無双」〜四国遠征の章〜

冒頭で全員が一端そろい踏みになるシーンで、キャラクターの華やかさがAiiAの舞台上を満たした。あのだだっぴろい空間が、セットではなく舞台上にいる人達の存在感でちょうどぴったり満杯。壮観でため息をつく。


吉谷さんの脚本はいつもすごく上手にまとめたレジュメのようで、話を進めるのに必要なポイントを余さず抑えているのだけれど、要点だけ抑えてさくさく進みすぎる傾向があるのですが、前作・舞台「戦国無双関ヶ原の章(脚本・演出ともに吉谷さん)はエピソードの進行速度を加速させるために考案されたようなセットもフル活用して、大量の人物の大量のエピソードがすさまじい速度で舞台上で展開されました。見終わったとき、ほとんど愕然としたのをよく覚えています。ほぼひっきりなしに鳴る音楽とたくさんの立ち回りも相まって、ゲームのムービー部分が全編続く感じ。演劇で喩えるならおそらくレビューが一番近い。

そういう所が戦国ものにぴったりだと思いました。
個人の人生などこれまでとこれからのほんの一握の砂、よどみに浮かぶ泡沫に過ぎない事を実感するのが歴史物を見る面白さで、大河ドラマが「1年かけても断片しか描けない」という形でこちらに突きつけてくる無常観を、逆に大量のエピソードを2時間に圧縮し流れるように見せた事で発生させたのが前作・関ヶ原の章だった、ちょっとおおげさに言うなら。


今回の「四国遠征の章」は脚本が変わったので予想通り密度が下がって、ちょっと寂しかったのですけれど、クライマックスのど直球な芝居と、「そう、それ!その視点です!」と心の中でサムズアップするくらいしっくり来た終わり方で加点がついて、トータルで今回も大好き。という結論になった。前回は作品全体として表現されていたものが、今回は脚本で(言葉で)示された、という感じでしょうか。流れるような全体のトーンは踏襲されてたし。

個人的にはもっと圧縮かかってつるつる流れてくれたほうが好きなのですが…基本の密度はもっと高く+そのときそのときの要所をクライマックスでたっぷりやる、というのはどうです?(我がままを言っています)いやでもほんと戦国無双は私がいままで見た範囲では吉谷さんの作風が最も作品にプラスに働いていると思うんですよね。劇場に行って、眼前で流れていく群像劇に身を委ねて、哀しくなっていたい。いつまでも。