あの無様な姿を見ろ!〜『ミュージカルテニスの王子様3rdシーズン 全国立海 後編』

3rdシーズンの間ずっと引っかかっていたことが腑に落ちて私の中で完全なる大団円を迎え、私はこのジャンルの本質を、テニミュの意味を改めて取り戻した。いつも本質的でいてくれる製作委員会にありがとうと言いたい。

 

テニミュの公演形態って特殊なので説明するのが難しいのですが、まず原作(無印)を一巻から四十二巻まで、内容のちょうどいいところで区切りながら順番に公演にしていくのが基本の流れで、今その三巡目(シーズン3)が完結したところです。

しかし2ndも3rdも再演と表現するにはシーズンごとの変更が多いです。半分くらい以前のシーズンの曲や演出は踏襲されますが、シーズンごとに同じ原作を元にしたリブートを行っているとみなした方がスッキリするくらいの違いがあります。

原作の区切り方がその都度違うのでシーズンごとに公演タイトルの総数は異なるし、出演キャラも毎度微妙に違ったりする。各学校の音楽的なテーマはシーズンを超えてもある程度引き継がれるけれども、シーズンごとの全体の路線の違いもなんとなくあるので、その影響で同じ学校のテーマでもシーズンごとに差異が生じる。リブートと再演の中間くらい、基本姿勢としてはリブートだが使える部分はくったくなく使う、という感じでしょうか。

 

その結果、1stと2ndの両方からの踏襲と新演出が混ざることになる3rdの公演はサンプリング的ないしマッシュアップ的で、とにかく各シーン、各曲の音楽も振り付けもものすごく、よく言えば重層的、悪く言えば力技の継ぎはぎでした。過去のモチーフがサンプリングされてきたら歴戦の観客はすぐ分かるし、気持ちとしては嬉しいけれど、統一感に欠けると感じることも多く(演じる側も難しいのではないかと思った)、果たしてこれは正解なのか?どう評価したらいいのかよく分からないまま見てるところがありました。

 

原作だと直接的には描かれなかったリョーマとライバルズの試合をミュージカル版では(珍しくはっきり原作の描写から離れる形で)実際にやっています。「身体にテニスの動きは染み付いてるからね」、つまりこれまでの体験を理由として記憶を取り戻した上で幸村戦に臨むという展開に説得力を持たせるためですね。1stシーズンはリョーマ役を数人で引き継ぎながらやってきたので、あそこで振り返りを実践してリョーマの体験を統合する必要があった(逆にいうと一人でリョーマを通した2ndではライバルズとの試合は省略しても意味的には成立するとも思っていた)。

 

で、そのライバルズとの試合を見ていたら、「そうか、3rdシーズンだけじゃなくて、1stから3rdまで全部の振り返りになるんだ今回の公演は」と気づいたんですね。もともとそれ以前を踏襲してきたものを統合するってのは、そういう事になるんだわ、と。それぞれのライバルの試合の中に1st-3rdが含まれていて、それが各校分あるという怒涛のマッシュアップ。3rdライバルズのシーンはテニミュの歴史が圧縮されていて、ブラックホールのような圧があったし、なんか時空のねじれを体感しました。私は途中参加だけど、それでもそれなりの年数のたくさんの公演の記憶と思い入れがあって、それら全てのフラッシュバック総決算だったので。3rdに入ってから、ミュフェスとかOB(さっきー)の起用とか、原作からやや独立して「テニミュ」の歴史自体を参照元としたテニミュの動きが増えているなあと思っていたのですが、同じ流れですね。1stと2ndシーズンを踏まえた上での3rdシーズンだという方針。

 

そうか、3rdのぎこちなさというのは、今回の公演で真田がリョーマを指していう「無様」の状態なんだと思いました。3rdシーズンというのはこれまでのテニミュ2シーズン分の歴史と情報量で「無様」な状態になっていたのだ、と。その次にどういう展開が来るか、みなさんご存知ですね。さらに本編後に怒涛の歴代エンディングソングの連べ打ちが来たので、マジで4thはフルリニューアルくるかもなあ、と思いました。

 

 

テニスの王子様という物語が描いているのは体験と記憶を重要な媒介物としながら自己更新を繰り返す、回転と変化を続けていくことです(越前とはなんとテーマを体現する名前だろう)。実際の人間が長期間担当する舞台というメディア、その中でも歌って踊って動いて演じる身体性が強いミュージカルという形式、一つの原作を再演ではなくリブートを繰り返す作り方。テニミュという公演そのもの、興業そのものがテニスの王子様のテーマを体現し続ける試みです。これ以上2.5次元な事はない。テニミュ2.5次元の本家本元であり、総本山であるのは原作のテーマとミュージカル版のあり方が呼応しているからです。

 

3rdは予告なく過去のエンディング投入するようになりましたけど、いきなりでもお客さん達はみんな対応できるじゃないですか?振り付けもこなせるし歌詞もレスポンスも大丈夫。あれはまさに「体が覚えている」だよなあと、あの客席のリアクションの良さがすごく好きなんです。歴代キャストはもちろんのこと、スタッフもお客さんも、つまり貴方も私もテニスの王子様なんです。だから、次で何があっても、みんな一緒に回転しながら前に進もう。それがテニスの王子様であるという事だからだ。