『SICKS』と『アメリカン・ホラー・ストーリー:アポカリプス』の映像における叙述トリック

※『SICKS』と『アメリカン・ホラー・ストーリー:アポカリプス』のネタバレがあります

 

 

アメリカン・ホラー・ストーリー』というドラマシリーズがあります。名前の通り、アメリカのホラードラマで、現在シーズン9までありますが、続き物ではなく、シーズンごとにそれぞれ別の物語が描かれます。シーズン1はとある呪いの館での物語、シーズン2は精神病棟での物語、シーズン3は魔女の話、という具合で。

同じ俳優が違うシーズンに出演していた場合は別の役になり、例えばエヴァン・ピーターズはシーズン1ではテイト・ラングドンという役、シーズン2ではキット・ウォーカーという役です。ただし多少出入りはあるもののメインキャストはほぼ同じ顔ぶれで、エヴァン・ピーターズやサラ・ポールソンジェシカ・ラング様などの常連組は「アメホラで通算何役やってますか???」状態です。劇団アメホラもしくは劇団ライアン・マーフィー(プロデューサー)の感があります。

 

 

シーズン間のつながりはほのめかしレベルの情報があったりなかったりという程度。これまで人に勧める時は「興味を惹かれた舞台設定の、どのシーズンから見初めても支障はないよ」と言ってきましたが、シーズン8『アメリカン・ホラー・ストーリー:アポカリプス』は過去のシリーズの一大クロスオーバーで、ここから見ても完全に意味が分からないやつでした。これは一見さんにはまったく勧められない。でもライアン・マーフィーの新しいミューズであるコーディー・ファーンの輝きを見て欲しいのでよかったら過去シリーズを走破してたどり着いて欲しい。今なら皆さん比較的お時間あると思いますし…

シーズン8にシーズン3のキャラクター達がそのまま登場した時はびっくりしたのですが、終わってみるとクロスオーバーにした意味がわかりました。

 

 

突然お国が変わって日本の話になりますが、『SICKS』という2015年のテレビ東京の番組がありました。

基本的にはオムニバスコント番組だと思いますが、一見独立したそれぞれのコントで同じ役者が演じていたのは実は同一の役だったことが中盤で明かされ、以降は全てのコントが集約されて全体で一つのドラマになりました。

あるコントのAV女優さんは違うコントに出てくるお店の人でもあった、こちらのコントとあちらのコントは同じ人物の働いている時の様子とプライベートの時の様子だった、というような仕掛けで、オムニバス形式のコント番組では固定の出演者が複数のコントに別々の役として出演するのは珍しくないので、そういう認識を逆手にとって視聴者を引っ掛けたわけです。

リアルタイムで視聴した時「映像でやる叙述トリックって感じだな」と思いました。

 

 

アメリカン・ホラー・ストーリー:アポカリプス』でも同じようなトリックがあったのです。過去シリーズのクロスオーバーなので、「アポカリプス」の中で複数の役を演じることになる常連組は何人もいるのですが(サラ・ポールソンエヴァン・ピーターズなんてほとんどギャグに近い勢いでシーンごとに違う役で出てくる)、「記憶を封じられて違う人格として数年間生きてきた」キャラクターがいたことが終盤で判明して、それが物語上の大きなキーとなりました。

一応どのキャラかは伏せますが、あるシーンのAというキャラと数年後のシーンのBというキャラは実は同一人物だったわけです。もともとアメホラというシリーズは常連キャストで回すことが多く一人が複数の役を演じるのに慣れていたこと、特にクロスオーバー企画であるシーズン8の中では複数の役を演じるキャストが多かったことが引っ掛けとなっていたのですね。

もしこれが新規の独立した物語で、全てのキャラクターを別個のキャストが演じてる中でAとBだけ同じキャストが演じていたらバレバレすぎて成立しなかったでしょう。

 

 

ひとまず私はこの仕掛けを「映像における叙述トリック」と呼んでいるのですが、いくつかの環境が揃った例外的な状況でないと無理だと思うので、正直いって映像畑でこういう情報の隠匿と開示をトリックとして効果的に使える作品がまたあると思っていませんでした。演劇だと探せば見つかるかもなとは思っていたのですが。

 

 

数年ぶりにこのトリックに出会って、このタイプの映像作品が他にも探せばあるかなあ?という気持ちが芽生えたので、募集してみようかなと思って書いたエントリです。もし何かご存知のかたがいたら情報をお待ちしています。もしくは、映像ならではの叙述トリック的なものはこういうのもあるよ、という違うタイプの仕掛けについてのお話もお待ちしています。