同時代性と普遍性

中学生か高校生か忘れてしまったけど、まあとにかく私が制服を着ていた頃、朝日新聞の夕刊で(おそらく若者向けの)コラムコーナーがあった。週一か週二×数回(一ヶ月くらい?)の持ち回りで、だいたい芸能人やアーティスト、作家など。確かV6のイノッチの時もあった。
その中に「今届く歌を」というような回があった。書き手はおそらくヒップホップ畑の人で、「オレは『いま』の歌が歌いたい。明日には古くなって、半年後にはもう聞けたもんじゃなくなってるような歌を」という内容。

カルチャーショックと言えるくらいに驚いた。それまで「不朽の名作」とか「いつ見ても古びない」というようなものこそがが良いものだと思っていた。同時代性、つまり今この瞬間を作品にして残す、という事にも価値がある――少なくとも、そういう事に重きを置いて作品を作っている人もいるんだ、という事に初めて思いが至った。

それから随分作品の鑑賞態度が変わった。流行りのものも楽しめる様になった。それまでは流行りものに対して「どうせ来年には興味がなくなるものだ」という思いが頭の片隅から離れなくて手を出しあぐねていたけれど、「今それが好き」という所に意味があると思える様になったし、自分がのれなくても、何故それが今流行っているのか、という所に興味を持てば好奇心や探求心の対象として楽しめた。よどみに浮かぶ泡沫のようなテレビのバラエティーを楽しんで見られるようになったのも多分この時から。漫画でいえば、週刊連載の読者の興味に応じてころころ変わっていく所をダイナミズムと時代感覚の所産として楽しめるようになった。これがなかったら、もっと早くに週刊少年誌から卒業していたと思う。色々あって今はもう週刊誌をほとんど読まなくなってるんだけど、数年後には忘れられるかもしれないけど今一瞬の熱狂を提供する作品を、くだらないものだとは今でも思っていない。

要するに作品には普遍性と同時代性という二つの側面があって、片方に特化してる作品もあるし、両方をバランス良く備えた作品もある。私はそれまで片方の面にしか意義がないと思っていた。作品を評価する時の基準が増えて、見る対象が増えて、私の人生は広がった。

昨日ぼんやりテレビ見てたら9mm Parabellum Bulletの誰かか「歴史に名を残すとかじゃなくて、今音楽が好きな人に届けば」みたいな事を言っていて、ふと思い出しました。あのコラム、誰だったんだろうな。スチャダラパーの誰かかGAKU-MCだと思うんだけど…